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父が倒れた日のことは、今でも鮮明に覚えている。2022年11月の火曜日の朝、母から電話がかかってきた。「お父さんが呂律が回らなくて、右手が動かない」。僕はすぐに「脳梗塞だ」と思った。
救急車を呼ぶよう指示して、僕は職場に「家族の緊急事態」と一言だけ伝えて飛び出した。父は当時72歳。高血圧の持病はあったものの、特に大きな病気もなく普通に生活していた。それが突然、入院することになった。
あの日から今日まで、介護がない日は一日もない。最初の1ヶ月は本当に何も分からなくて、何度も途方に暮れた。この記事は、そのときの記録だ。
入院してから要介護認定申請まで——知らなかった手続きの連鎖
父は近くの総合病院のICUに入り、3日後には一般病棟に移った。右半身に麻痺が残ったが、言葉は少しずつ戻ってきた。主治医から「回復期リハビリ病院に転院して、その後は在宅か施設を考えてください」と告げられたのは入院から1週間後だった。
「在宅か施設」。そのとき僕には、その言葉の意味すらまともに理解できていなかった。
まず動いたのは、地域包括支援センターへの連絡だ。病院のソーシャルワーカーさんが「要介護認定の申請を早めに出した方がいい」と教えてくれた。申請は本人か家族が市区町村の窓口で行う。父の住む市の場合、窓口は市役所の長寿福祉課だった。
申請に必要なものは以下の通りだった。
- 介護保険被保険者証(父の保険証と一緒に引き出しに入っていた)
- 申請書(窓口でもらえる、その場で記入)
- 本人確認書類と代理申請の場合は委任状
申請から認定結果が出るまで、標準では30日かかる。だが実態はもっと長い。うちは申請から結果通知まで44日かかった。入院中から動いておかないと、退院してから介護保険サービスを使えない空白期間が生まれる。これが「やっておけばよかったこと」の第一だ。
要介護認定の調査——正直に話すことの重要性
申請から約2週間後、市の認定調査員が病院に来た。約30分の聞き取り調査だ。調査員が父に「食事は一人でできますか」「立ち上がれますか」などを確認しながら、僕にも日常生活の状況を質問した。
このとき、家族として強調した方がいいことがある。「良いところ」ではなく「困っていること」を具体的に伝えることだ。
調査員が来る日、父はたまたま調子が良かった。右手はほとんど動かないのに、「大丈夫です」と答えてしまった。後で母から聞いたら、普段は着替えにも30分以上かかるし、一人ではトイレも危ないとのこと。そういう実態を僕が補足で伝えた。
結果は要介護2。主治医の意見書と合わせて、介護認定審査会で判定される。認定結果によって使えるサービスの上限額(支給限度額)が変わるため、実態に即した認定を受けることが大切だ。
ケアマネジャーとの初面談——何を聞けばよかったか
要介護認定が出たら、次はケアマネジャー(介護支援専門員)を選ぶ。ケアマネは居宅介護支援事業所に所属していて、介護サービスの計画(ケアプラン)を作ってくれる専門家だ。
僕は地域包括支援センターに紹介してもらって、自宅近くの事業所のケアマネ・田中さん(50代女性)に担当してもらうことになった。
初回面談は約1時間。父の生活状況、家族の介護力、住環境、本人の希望を聞かれた。そのとき僕が後悔したのは、事前に「聞きたいことリスト」を作っていなかったこと。当日は頭が混乱していて、後から「あれも聞けばよかった」という疑問が山ほど出てきた。
今なら、初回面談で必ず聞くべきことはこれだと言える。
- 利用できるサービスの種類と組み合わせ方
- 介護保険の自己負担額の目安(父は1割負担)
- 福祉用具のレンタル・購入について
- 緊急時の連絡体制
- 施設入所を考える場合のタイミングと選び方
ケアマネさんは忙しい。一度に全部答えてもらうのは難しいが、疑問をリスト化して次回面談に持っていくと話が進む。
介護用ベッドの手配——レンタルが正解だった
父が退院するにあたって、最初に手配したのが介護用ベッドだ。在宅介護を始めるとき、これがないと話にならない。
介護用ベッドは要介護2以上であれば介護保険でレンタルできる。パラマウントベッドの「らくらくモーション」という背上げ・高さ調節機能付きのモデルをレンタルした。月額レンタル料は2,200円(1割負担)。
最初は「買った方が安いのでは」と思ったが、ケアマネさんに止められた。理由は2つ。状態の変化に合わせて機能を変更できること、そして介護が終わった後に処分に困らないこと。確かに、1年後に父の状態が変わってベッドの機種を変更したとき、レンタルなら交換するだけで済んだ。
ベッドに合わせてレンタルしたのは以下だ。
- サイドレール(手すり):月550円
- マットレス(体圧分散タイプ):月1,100円
- テーブル(ベッド横に置くアーム式):月330円
搬入・設置はレンタル業者が行ってくれた。部屋の採寸が必要なので、退院日の2週間前には手配を始めた方がいい。
最初の1ヶ月でやっておけばよかった3つのこと
1. 兄弟・家族間での役割分担を明文化する
うちは僕と妹の2人兄弟で、母も高齢だ。最初の1ヶ月は僕が全部引き受けてしまった。書類の手配、ケアマネとの連絡、病院への付き添い……。気がつけば過労で体を壊しかけた。
妹と話し合って「平日の病院連絡は僕、週末の付き添いは妹、ケアマネとの月1回の面談は交互に」と決めたのは2ヶ月目だった。もっと早くやるべきだった。
2. お金の管理方法を決める
介護には思った以上にお金がかかる。父の場合、月の介護費用の実費は以下の通りだった。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 介護保険サービス自己負担(1割) | 約18,000円 |
| 医療費(通院・薬) | 約8,000円 |
| 紙おむつ・衛生用品 | 約5,000円 |
| その他(タクシー代等) | 約3,000円 |
| 合計 | 約34,000円 |
父の年金収入で賄えてはいるが、管理が曖昧だと「誰がいくら立て替えたか」でモメる。早い段階で介護用の共通口座を作った方がいい。
3. 「介護休業」の制度を調べておく
会社員には介護休業という制度がある。対象家族1人につき通算93日間、3回まで分割取得できる。給付金(介護休業給付)として休業前賃金の67%が支給される。
僕はこの制度を知らずに、最初の2週間を有給休暇で乗り切った。もったいなかった。介護が始まったらまず総務に「介護休業制度について教えてほしい」と相談することを勧める。
あれから1年半、今思うこと
父は今も在宅で生活している。週3回のデイサービス、週2回の訪問リハビリを組み合わせながら、少しずつ機能を回復させている。右手の動きはまだ制限があるが、短い文字なら書けるようになった。
介護は突然始まる。「いつか来ること」とは思っていても、心の準備ができているかといえばそんなことはない。でも、手続きのこと、使えるサービスのこと、お金のことを早めに知っておけば、混乱の中でも一つひとつ対処できる。
この記事が、同じように突然介護が始まった誰かの、最初の地図になればと思う。
※本記事は個人の体験に基づく情報提供であり、医療的助言ではありません。健康上の懸念がある場合は、医師にご相談ください。
